Maison Margiela

Glam Slam S61WG0034 PR818T 2003

メゾン・マルジェラが提案する
新たなアイコン・バッグ

街に出ると、ふわふわとしたトラベルピローやクッションのようなこのバッグを見かけることがある。
──メゾン・マルジェラのバッグだ。

2017年に発売され、シーズンごとに新たなラインナップが発表されているこのバッグをメゾン・マルジェラは、〈Glam Slam〉と名付けた。「トラベルピローを掴み、空港内を急いで歩くような無意識の行動」から着想を得ているとマルジェラチームは話す。
そして今、〈Glam Slam〉はメゾン・マルジェラの新たなアイコンと化している。
タビブーツやMM6のジャパニーズバッグに続きファッション人の心を掴んでいるのである。

その理由の一つが、クラッチバッグとしても使用できる点にある。
ショルダーベルトを外しカレンダータグに手を通せば、ボリューム感が愛らしい手持ちバッグに様変わりする。
実際、ランウェイショーでは多くのモデルが小脇にこのマクラのようなバッグを抱えランウェイを闊歩していた。その愛らしさは、洗練されていて決して寝起きのようには見えない。トラベルピローがモードとして昇華されているのだ。
アヴァンギャルドでありながら、実用的といった、相反しそうなモティーフを一つのバッグに落とし込むセンスはさすがマルジェラと言える。一体このバッグはどこから着想を得たのだろうか?

〈無意識のグラマー〉は、常にそこにある。

近年のメゾン・マルジェラは、数シーズンを通して一貫したテーマを掲げている。
〈Glam Slam〉はそのうちのひとつ、〈新しい/無意識のグラマー〉から生まれたものである。

〈グラマー〉は〈魅力〉を意味する。
しかし、マルジェラでは単なる〈グラマー〉ではなく、〈新しい/無意識の〉と形容されている。
これを解明するには、対義的な〈既存の/意識的なグラマー〉から見ていく必要がある。

〈意識的なグラマー〉とは何か?私の解釈では、ここ100年ほどの人類が目指してきた表層的な容姿の「美」そのものである。特に女性は、痩せること、流行に乗って着飾ること、メイクをすることが美しいとされてきた。そして多くの場合それらは一部の白人だけが持つ基準であった。
日本にも未だに根強い「モデル体型」や「ハーフメイク」といった価値観はこれの副産物であるわけだが、冷静にみれば差別的でもあり健康的な文化ではないはずだ。これに当てはまらない自分の容姿を憎んでしまう人は世界中にいる。自分にないものを持つ他者への憧れは、自身を愛せない有害な感情である。
画一的な表層の美に万人が到達しようとする活動、これが〈意識的なグラマー〉の解釈である。

対して〈無意識〉。
通常、〈意識〉と〈無意識〉は氷山で例えられる。〈意識〉は海に浮かぶ氷山の一角であり、水面下には巨大な〈無意識〉が鎮座している。
〈無意識〉は、常にそこにある。──ならば、メゾン・マルジェラは〈無意識のグラマー〉を、「魅力的なものは、すでにそこにある。」と言ったような意味で捉えた可能性はある。

すると、対義語である〈新たな/無意識のグラマー〉とは、「すでにそこにある、自分にある美を活かす活動」と解釈できよう。
私たちはすでに美を持っている。──これがメゾン・マルジェラのメッセージではないか?

これを裏付けるとまでは言わないが、ディレクターであるジョン・ガリアーノはこれに類似する発言をしている。
「私たちは、日常生活の中で私たちを誘惑する新しい魅力のアイデアを提案し、さらに探求することにしました。」
こう語るように、ガリアーノが影響を受けたのは、日常の生活の中にすでにあるものだ。

自分に向けた愛こそ、
既存の美に対するアンチテーゼ

“マルジェラの使命は、既成概念を否定すること” というマルタン・マルジェラの言葉をメゾン・マルジェラは継承している。
彼らは、これまでの人間社会が目指してきた、日常生活に溶け込まない存在、〈意識的なグラマー〉をプロデュースせず、日常に当たり前のように溶け込むバッグをデザインした。──こう考えると、〈Glam Slam〉はトラベルピローから着想を得ているとマルジェラチームがいうのも不思議はない。

最初の〈Glam Slam〉が発売されて5年経ち、目の前の生活を慈しもうとする価値観はより高まっている。
コロナ禍でそれに気がついた人も多いだろう。
日々〈無意識〉のうちに目の前を通り過ぎていくこの世界で、深呼吸をしてみると新たな発見が生まれる。
ふと立ち止まる余裕を持てば、目の前の世界の美しさ、そして自分自身の持つ美しさにも気がつくことができる。

柔和な見た目とは裏腹に、〈Glam Slam〉は既存の美に対するアンチテーゼを秘めている。
それは、常にそこにある、自分自身に向けた愛である。
ふわふわとしたマクラのようなバッグは、その形通り、自分を愛せるリラックスした時間を提供してくれる。たとえ、どこにいても!

Maison Margiela
Glam Slam S61WG0034 PR818T 2003
素材:外側:ラムスキン100% / 内側:ポリエステル100%  生産国:イタリア