Introduction

ノブユキ マツイ(Nobuyuki Matsui)は、デザイナーの松井信之氏による自身の名を冠したブランドだ。
毎シーズンその時感じたことや好奇心を基に、学術的アプローチによるコンセプチュアルなテーマで洋服を製作している。
ひねりの効いたデザインとテーラードの技術をベースとしたディテールの作り込みが特徴で、国内のみならずヨーロッパからも支持される新進気鋭のブランドである。
伝統技術から成る手仕事を大切にし、加工技術や素材選びまで拘り抜いた作風が最大の魅力となっている。

Designer

デザイナーの松井信之氏は高校卒業後、経営心理学を学びにイギリスに留学、元々アートに関心があった彼は、現地のアート作品や環境などに影響を受け、次第にファッションへ興味を移していった。
2011年にはロンドン・カレッジ・オブ・ファッションに入学し、在学中にロンドンファッションウィークの若手デザイナー向けファッションコンテストFashion scoutで受賞しランウェイショーを開催するほどの才能を発揮。
在学中、テーラリングの頂点である“サヴィル・ロウ”の職人から技術を学び、そのエッセンスが現在でもデザインに現れている。

2016年秋冬コレクションより、自身の名前を冠にしたブランド「ノブユキ マツイ(Nobuyuki Matsui)」を本格的にスタート。
ビスポークの洋服をコレクション形式で発表した。
パターンから縫製、生地加工まで全て自身で手がけ、オーダーメイド服としてときにアートワークとして発表。
2018年春夏では、プレタポルテコレクションとして初めてコレクションを展開。
TOKYO FASHION AWARD2019を受賞し、海外からも注目を集めている。

期待と可能性に満ちた
ブランド

初めてアトリエ兼ギャラリーのEast end galleryを訪れた時のことだ。
私は置かれている服を一目見て、“50年後にこの服はどんな味わいを見せるのだろうか?”と興味をそそられた。
永い年月大事にされ、現代と違った様相を呈す社会になった時に、また異なる表情を見せてくれるのではないかという期待を感じたからである。

綿密な計算と手仕事による温度感は、アートピースのように感性に直接訴えかけてくる。様々な人の評価を懐深く受容するが自信に満ちているその様は往年の画家の作品のようである。
それはかつてのオートクチュールからプレタポルテへの転換期のデザイナーのようでもあり、これほど期待と可能性に満ちたブランドをNobuyuki Matsuiの他に知らない。

絵画のような空気感

“Nobuyuki Matsuiからアートを感じる”とお話ししたが、さらに深堀してみる。
拠点となるEast end galleryでは異国を思わせる落ち着いた雰囲気の中、古くからそこにあったかのように服が並べられている。
まるで美術館の絵画の1作品の中に入り込んだような違和感を内包しつつ、服の存在感が強く感じられる空間設計のようだ。
その空間や服から表現されるものは、優しくも感じるし強くも感じる。
あるいは、美も感じるし畏怖すら感じるようにも思える。

私がアートを感じたのはそこが理由だ。 アートとは本質的には自由なものだとは思うが、心打つアートには他人を受け入れる余白が必要だと思っている。 これが正解だと言わんばかりの主張しか見えないものではダメだし、画一的なものでもだめだ。 ふと考えさせられて、様々な角度で心に深く残るようなものこそ後世まで評価されるものだろう。 ただしこれは狙って作るようなものではなく、デザイナーが実直に表現したものが結果的にアートに昇華するのだ。Nobuyuki Matsuiにはこの余白のようなものが存在するように思える。

独特な空気感の理由

この、他のファッションブランドでは見られない独特な空気感の理由を探ると、驚くことがわかった。
松井氏は他のデザイナーの服やファッション業界のトレンドなどの情報を一切入れないというのである。
それを聞いた時、思わず納得してしまった。
まるで画家が自身のアトリエに閉じこもり作品を完成させるように、頭の中の邪魔になるものを排除して没頭することでようやく作り上げられる空気感なのだろう。
松井氏は「お客様に評価してもらいたい」とブランドの多くを語らない。
是非手に取って頂き、自身の感性を呼び起こしてみてはいかがだろうか。